民法総則 公法人の不法行為 44条1項と110条

法人の代表者が、自己の権益を図るために権限を乱用して、取引行為的不法行為を行った場合、どのように処理していくかが問題となる。

法人

甲代表者→←相手方

甲代表者が自己の利益を図るために、相手方と取引をした場合。
通常、甲の取引行為は、法人の目的の範囲内であるため、一般的な代理権の範囲内であり、民法54条の内部的な制限の問題として処理することになる。

※参考条文
(理事の代理権の制限)
第五十四条  理事の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。


しかし、民法54条を適用できない場合がある。それは、市町村をはじめとした公法人の場合である。市町村の機関である市長村長の権限は、法律によって決まっている。
そのため、市町村の代表として相手方と取引を行う場合、その取引が法律で定められた範囲外の行為であれば、相手方が、その法律の存在を知っていようが知っていまいが、無効となる。
法律による制限は、原始的な制限であって、内部的な制限ではない。法律の不知は許されない。からである。


では、民法44条や民法110条の適用の余地はあるだろうか。

※参考条文
(法人の不法行為能力等)
第四十四条  法人は、理事その他の代理人がその職務を行うについて他人に加えた損害を賠償する責任を負う。
2  法人の目的の範囲を超える行為によって他人に損害を加えたときは、その行為に係る事項の決議に賛成した社員及び理事並びにその決議を履行した理事その他の代理人は、連帯してその損害を賠償する責任を負う。

(権限外の行為の表見代理
百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。


判例は、民法44条について、市町村などの公法人にも適用されることを認めている。
また、民法110条についても、類推適用が可能だとしている。

たとえば、村長が村議会で1000万円の借り入れを決議したにもかかわらず、
2000万円を借り入れる決議が成立したと偽り、銀行から2000万円借りて、残り、1000万円を着服したような場合。
決議行為が合法的に行われており、「職務を行うにつきなされた」といえるため、民法44条1項の適用、民法110条の類推適用が可能であるとしている。


では、民法44条1項の適用、民法110条の類推適用どちらを優先するべきかということが問題になる。
民法110条の場合は、「第三者代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるとき」に表見代理を認めるということであり、相手方の主観的な態様が要件となっている。
一方、民法44条1項には、単に「職務を行うについて」となっており、相手方の主観的態様は問題とされていない。

よって、相手方としては、民法44条1項を適用したほうが得しそうである。
しかし、判例は、
地方公共団体の長がした職務権限外の行為であっても、その外形からしてその職務の範囲に属すると認められる場合であっても、相手方が、その職務行為に属さないことを知り、または、これを知らないことに重大な過失がある場合は、当該地方公共団体は、相手方に対して、民法44条1項による損害賠償責任を負わない。」
として、民法44条1項にも、相手方の主観的な態様が要件となるとした。

そのため、両規定のどちらを適用しても、大きな差はなくなっている。

以上、今日は、「民法総則 公法人の不法行為 44条1項と110条」についてでした。