民法総則 時効の効果

伊藤真試験対策講座1 民法総則

時効が成立すると、時効の効果は起算日に遡る。債権の消滅時効の場合は、起算日の時点から、債権がなかったものとして扱われるし、取得時効の場合は、起算日の時点から、自分のものであったとされる。
ただし、刑事事件の時効と違い、時効によって、必然的に時効が成立するわけではなく、当事者が時効を援用しない限り、時効は完成しない。また、時効が完成した後に、時効を援用せずに、債務を弁済することも可能である。
このため、時効制度については、「良心的規定」と説明されることがある。

しかし、時効の規定の中で、民法162条や167条には、権利を取得し、消滅が生じるという言い方をしている。
実体法上は、消滅しているかのように受け取れるにもかかわらず、訴訟では、援用がなされない限り消滅したものとして扱われないという矛盾が生じる。
この矛盾をどう説明するべきかを起点にして時効の法的構成について議論がなされている。

一つの考え方は、時効の完成によって、権利の得失は生じるものの、訴訟上取り上げてもらうためには、攻撃防御方法として主張する必要があり、145条はその旨を定めたものであるとする説。(攻撃防御方法説、実体法の立場)
似た考え方として、時効制度は、権利の得失制度ではなくて、真の権利者の立証の困難を解消する制度であるから、時効の完成は、法定証拠となるとする説もある。(法定証拠提出説、訴訟法説の立場)
以上の説については、訴訟においては、当事者が主張したことのみを取り上げるという弁論主義が採用されている民事訴訟法上は当たり前のことを規定しているに過ぎない。しかも、なぜ、時効の制度についてだけ、このような規定をおいているのか不明確であるという批判がなされる。

もう一つの説として、時効の効果は、時効期間の経過によって、直ちに確定的に生じるわけではなく、援用を停止条件として、あるいは、援用しないことを解除条件として、確定的に効果が生じるものであるとする説がある。(不確定効果説)
この説は、訴訟法上の証拠提出だけでなく、時効の良心的規定としての意味にも通じる一貫した解釈になっている。
現在の通説は、不確定条件説の立場であり、判例も、同様の立場に立っているとされている。

※参考条文
民法
(時効の効力)
第百四十四条  時効の効力は、その起算日にさかのぼる。
(時効の援用)
第百四十五条  時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
(時効の利益の放棄)
第百四十六条  時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。


(所有権の取得時効)
第百六十二条  二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2  十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。
(債権等の消滅時効
第百六十七条  債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
2  債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。


以上、今日は、「民法総則 時効の中断事由 請求」についてでした。